「腸活」の新常識、発酵性食物繊維とは?〜短鎖脂肪酸が、症状のない今のうちから腸を守る〜

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はじめに:腸活が「次のステージ」へ

「腸活」という言葉、すっかりおなじみになりましたよね。ヨーグルトや納豆、キムチなどの発酵食品をとる、便通を整える──そんなイメージをお持ちの方が多いと思います。

でも実は、ここ数年で腸活の世界に新しいキーワードが登場しているのをご存じでしょうか。それが「発酵性食物繊維」です。

消化器内科医として日々診察していると、「がんや病気になってから慌てる方」が本当に多いことを実感します。だからこそ、症状がないうちから腸を守る習慣をつくっていただきたい──。今日はそのキーになる「発酵性食物繊維」について、できるだけやさしい言葉でお伝えします。


そもそも食物繊維って、おさらい

食物繊維は、人の消化酵素では分解されない食べ物の成分のこと。長らく「食べ物のカス」のように扱われてきましたが、ここ20年ほどの研究で、まったく違う顔が見えてきました。

食物繊維は大きく分けると2種類あります。

  • 水溶性食物繊維:水に溶けてゲル状になるタイプ(海藻、大麦、オートミールなど)
  • 不溶性食物繊維:水に溶けず、便のかさを増やすタイプ(野菜、きのこ、玄米など)

これは多くの方がご存じかもしれません。ところが、最新の研究では「水に溶けるかどうか」よりも、**「腸内細菌のエサになりやすいかどうか」**で食物繊維を見直そう、という流れになってきています。

そこで生まれた新しい分類が、「発酵性食物繊維」なんです。


「発酵性食物繊維」とは?

発酵性食物繊維とは、その名のとおり、大腸で腸内細菌によって”発酵”されやすい食物繊維のことを指します。

水溶性食物繊維の多くは発酵性が高いのですが、不溶性食物繊維の中にも発酵性の高いものがあります。たとえば「レジスタントスターチ」と呼ばれる、冷めたごはんやイモ類に含まれるでんぷんの一部です。

つまり、「水溶性/不溶性」という枠を越えて、腸内細菌がしっかり食べてくれる食物繊維にこそ価値がある、というのが新しい考え方なんですね。

この発酵性食物繊維という概念を広めているのが、京都府立医科大学の内藤裕二教授らが中心となる「発酵性食物繊維普及プロジェクト」です。同プロジェクトは「発酵性食物繊維を1日3g以上プラス」を提唱していますが、これは公的なガイドラインの数値ではなく、同プロジェクトが普及啓発のために掲げる目安として位置づけられている点に注意が必要です。


なぜ「発酵」が重要なのか?──短鎖脂肪酸という宝物

発酵性食物繊維が注目される最大の理由は、腸内細菌が発酵させたときにできる「短鎖脂肪酸(たんさしぼうさん)」という物質にあります。

短鎖脂肪酸には主に3種類あります。

  • 酢酸(さくさん)
  • プロピオン酸
  • 酪酸(らくさん)

聞き慣れない名前かもしれませんが、これらは私たちの健康にとって、本当にすごい働きをしてくれる物質なんです。

短鎖脂肪酸の主な働き

厚生労働省のe-ヘルスネット「食物繊維の必要性と健康」(最終更新:2026年2月16日)には、食物繊維が大腸で腸内細菌によって分解・利用され、酢酸・酪酸・プロピオン酸といった短鎖脂肪酸や乳酸が産生されること、これらの酸が大腸内を酸性に保ち、善玉菌の増殖に適した環境にするとともに、悪玉菌の増殖を抑えることが解説されています。

加えて、消化器内科の臨床現場で広く知られている事実として、短鎖脂肪酸の中でも酪酸は、大腸の粘膜細胞のメインのエネルギー源として使われています。大腸の細胞が元気に働くためには、酪酸が欠かせないんですね。

「腸活=便通の話」と思われがちですが、実は全身の健康と直結しているのが、短鎖脂肪酸の面白いところなんです。


大腸がんや腸の病気との関係

ここからは、私の専門分野に少し踏み込んでお話しします。ただし、これらは「研究レベルで報告されている」ことであり、「食物繊維をとれば必ず病気を防げる」という意味ではない点を、最初にお伝えしておきます。

大腸がんとの関連

複数の系統的レビューやメタ解析で、大腸がん患者さんと健康な方の腸内細菌叢を比較すると、いわゆる「バランス異常(dysbiosis)」がみられることが報告されています(出典:Meta-analysis of gut microbiome reveals patterns of dysbiosis in colorectal cancer patients, Journal of Medical Microbiology, 2025The Association of Microbiome Dysbiosis With Colorectal Cancer, Cureus, 2022)。

また、e-ヘルスネット「食物繊維の必要性と健康」でも、食物繊維の摂取が、心筋梗塞、脳卒中などの循環器疾患、2型糖尿病、各種がん(乳、胃、大腸がん)などの発症リスクの低下と関連していることが、数多くの研究で報告されているとまとめられています。

炎症性腸疾患(IBD)との関連

潰瘍性大腸炎やクローン病といった炎症性腸疾患では、患者さんの便中の短鎖脂肪酸(特に酪酸)が健常者と比べて減少していることが、2024年に発表されたメタ解析で示されています(出典:Quantitative Alterations in Short-Chain Fatty Acids in Inflammatory Bowel Disease: A Systematic Review and Meta-Analysis, Nutrients, 2025)。短鎖脂肪酸は腸の粘膜を守る大切な物質ですから、これは納得できる話です。

ただし、IBDをお持ちの方の場合、症状や時期によっては食物繊維のとり方に注意が必要です。自己判断で食物繊維を増やすのではなく、必ず主治医にご相談ください。


日本人は食物繊維が圧倒的に足りない!

ここでショックな事実をお伝えします。

厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」では、生活習慣病予防の観点から、食物繊維の目標量が定められています。公益財団法人 長寿科学振興財団の「食物繊維の働きと1日の摂取量」(同報告書 各論「炭水化物」を出典として明示)にまとめられている数値によると、成人の目標量は次のとおりです。

  • 男性:18〜29歳・75歳以上 20g以上/30〜64歳 22g以上/65〜74歳 21g以上
  • 女性:18〜74歳 18g以上/75歳以上 17g以上

国際的に理想とされる量は1日25g以上とされています(出典:厚生労働省 e-ヘルスネット「食物繊維の必要性と健康」)。

ところが、最新の厚生労働省「令和6年 国民健康・栄養調査結果」を引用したe-ヘルスネットによると、日本人成人(20歳以上)における食物繊維の摂取量の平均値は1日18.1gにとどまっています。

つまり、多くの日本人は食物繊維、とくに発酵性食物繊維が足りていないということ。これは予防医学の視点から見て、本当にもったいない話なんです。


どんな食材に発酵性食物繊維が多い?

ここからは実践編です。発酵性食物繊維を多く含む食材をご紹介しますね。

発酵性食物繊維が比較的多いとされる食材

  • 穀類:大麦(押し麦、もち麦)、オートミール、ライ麦パン
  • 豆類:納豆、大豆、いんげん豆、あずき、おから
  • イモ類:さつまいも、さといも(冷ますとレジスタントスターチが増えるとされます)
  • 海藻類:わかめ、昆布、もずく、めかぶ
  • 野菜・果物:ごぼう、玉ねぎ、アボカド、リンゴ
  • きのこ類:しいたけ、まいたけ、なめこ

参考までに、健康長寿ネットによると、糸引き納豆は1パック(30〜50g)あたり食物繊維が水溶性・不溶性ともにバランスよく含まれる代表的な食品として紹介されています。

ポイントは「葉物野菜だけに頼らない」こと。サラダだけ頑張っても、発酵性食物繊維はあまり増えません。穀類・イモ類・豆類・海藻類を意識して取り入れるのがコツです。

ちょっとした工夫で簡単に

  • 白米を「もち麦ごはん」に変える
  • 朝食をオートミールにしてみる
  • 納豆を毎日1パック
  • ごはんを冷ましてから食べる(おにぎり、お寿司)
  • 味噌汁にわかめやめかぶを足す

このくらいなら、明日からでも始められそうじゃないですか?


注意点:いきなり大量にとらない

「よし、明日から大量に食物繊維をとるぞ!」と意気込むと、逆にお腹の調子が悪くなることがあります。おなかの張り、ガス、下痢などが起こりやすいんですね。

健康長寿ネットでも、サプリメントなどで食物繊維をとりすぎると、おなかが緩くなったり、他の栄養素の吸収を妨げたりする可能性があると注意が記されています。

ですので、

  • 少しずつ量を増やす
  • 水分もしっかりとる
  • まずは2週間ほど続けて様子を見る

これを意識してください。


最後に:症状がないうちに、腸を守ろう

私が消化器内科医として大腸内視鏡検査を担当していると、ある日突然、進行した大腸がんが見つかる方を経験することがあります。「症状はなかったんですよ」とおっしゃる方も少なくありません。

腸の病気の多くは、症状が出る前から、長い時間をかけて少しずつ進んでいきます。だからこそ、症状がない今、毎日の食事から腸を守ることが、いちばん大切で、いちばん始めやすい対策なんです。

発酵性食物繊維を意識した食事は、特別なサプリも、高価な健康食品も必要ありません。もち麦ごはん、納豆、わかめのお味噌汁。日本人になじみのある食材ばかりです。

完璧を目指さなくていいので、まずは「1日にひとつ、発酵性食物繊維を足す」ところから始めてみませんか?

腸はあなたの一生のパートナー。今日からの一口が、10年後、20年後のあなたの健康をつくります。


この記事で出典として参照したサイト・資料

  1. 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定検討会報告書(公開ページ) https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_44138.html
  2. 厚生労働省 e-ヘルスネット「食物繊維」 https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/dictionary/food/ye-016.html (最終更新:2026年2月16日)
  3. 厚生労働省 e-ヘルスネット「食物繊維の必要性と健康」 https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/food/e-05-001.html (最終更新:2026年2月16日)
  4. 厚生労働省「令和6年 国民健康・栄養調査結果の概要」 https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001603146.pdf
  5. 公益財団法人 長寿科学振興財団 健康長寿ネット「食物繊維の働きと1日の摂取量」 https://www.tyojyu.or.jp/net/kenkou-tyoju/eiyouso/shokumotsu-seni.html (更新日:2024年12月26日)
  6. 発酵性食物繊維普及プロジェクト(監修:京都府立医科大学 内藤裕二教授) https://hakkousei-fiber.org/
  7. Yan R, et al. Meta-analysis of gut microbiome reveals patterns of dysbiosis in colorectal cancer patients. Journal of Medical Microbiology. 2025. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC12309989/
  8. Artemev A, et al. The Association of Microbiome Dysbiosis With Colorectal Cancer. Cureus. 2022. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8840808/
  9. He Y, et al. Quantitative Alterations in Short-Chain Fatty Acids in Inflammatory Bowel Disease: A Systematic Review and Meta-Analysis. Nutrients. 2025. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC12292850/

※本記事は健康増進を目的とした一般情報であり、個別の治療や診断に代わるものではありません。持病をお持ちの方や治療中の方は、必ず主治医にご相談ください。

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この記事を書いた人

消化器内科医(卒後20年)
市中病院で内視鏡・炎症性腸疾患・消化器がん化学療法を専門に診療
消化器病学会専門医/消化器内視鏡学会専門医/総合内科専門医

むずかしい医学を、やさしい言葉で

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