「玄米の発酵食品で、潰瘍性大腸炎の炎症が下がった」――2026年10月15日、そんなニュースが発表されました。
発表したのは、玄米の発酵食品を製造・販売している株式会社玄米酵素(札幌市)です。大学の研究者による臨床試験の結果が、消化器病の国際英文誌「JGH Open」に掲載されました。
潰瘍性大腸炎の患者さんにとって「食事で何とかできないか」は切実な関心ごとだと思います。外来でも、サプリメントや健康食品について質問されることがよくあります。
ただ、今回のニュースは見出しだけを読むと誤解しやすい内容です。私は今回、プレスリリースだけでなく論文の本文も読みました。すると、リリースには書かれていない大事な情報がいくつか見つかりました。
この記事では、消化器内科医の立場から、
- 何がわかって、何がわからなかったのか
- 「CRPが改善した」をどう受け止めればよいか
- 潰瘍性大腸炎の人が玄米や発酵食品を取り入れるときの注意点
を、できるだけやさしく解説します。
この記事の結論(先に知りたい方へ)
- いちばん大事な目標だった「症状の改善」では、差が出ませんでした
- 話題の「CRPの改善」は、途中でやめた人を除いた解析でだけ差が出たもので、全員で比べると、はっきりした差とは言えませんでした
- FBRAのグループでは、4人に1人ほどが途中で食べるのをやめています(吐き気・おなかの張りなど)
- 「さらに研究する価値があるかもしれない」段階で、治療薬の代わりになるものではありません
FBRAとは?玄米と米ぬかを麹菌で発酵させた食品
FBRA(エフ・ビー・アール・エー)は、Fermented Brown Rice by Aspergillus oryzaeの頭文字をとった名前です。日本語にすると「麹菌で発酵させた玄米」。
玄米・胚芽・米ぬか(表皮)を、みそやしょうゆ作りにも使われる麹菌(こうじきん)で発酵させた食品で、粉末を小分けにした形で販売されています。
発表元によると、約30年にわたって研究が続けられ、40本以上の論文が出ているとのことです。ただし、その多くは細胞や動物を使った基礎研究です。動物実験では「大腸炎が起こりにくくなる可能性」も報告されていましたが、人の潰瘍性大腸炎で本当に意味があるのかを確かめたのが、今回の臨床試験です。
💡 FBRAは「食品」であり、医薬品ではありません。病気の治療に使う薬とは、国の審査のしくみがまったく違います。
今回の臨床試験の内容
論文本文から、研究の概要をまとめます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 実施した病院 | 大阪中央病院(1施設) |
| 実施時期 | 2006〜2007年に参加者を募集(論文の発表は2026年) |
| 参加した人 | 20歳以上の潰瘍性大腸炎の患者さん 56人(最終的に食べ始めたのは52人) |
| 参加者の状態 | 寛解期(症状が落ち着いている)〜軽症の人が中心。約8割が5-ASA製剤(メサラジンなど)を服用中 |
| 方法 | 二重盲検ランダム化クロスオーバー試験 |
| 比較した食品 | FBRA と、見た目や性状を似せた「機能のない食品」 |
| 摂取量 | 1週目:1日1包(3.5g)→ 2週目:1日3包(10.5g)→ その後12週間:1日6包(21g) |
| 期間 | 14週間食べる → 12週間休む → もう一方の食品を14週間 |
| いちばん大事な評価項目(主要評価項目) | 臨床活動性指数(CAI)=症状の点数 |
| その他の評価項目 | 炎症・栄養状態の血液検査、安全性 |
少しむずかしい言葉を補足します。
- 二重盲検:患者さんも医師も、どちらの食品を食べているか分からないようにする方法。「効いている気がする」という思い込みを減らせます。
- ランダム化:くじ引きのように、どちらのグループに入るかを決める方法。
- クロスオーバー試験:同じ人が、期間を分けて両方の食品を試し、比べる方法。
ここで注目してほしいのは実施時期です。データを集めたのは約20年前で、論文になったのが今年、ということになります。この20年で潰瘍性大腸炎の治療は大きく進歩し、新しい薬がたくさん使えるようになりました。当時と今とでは、患者さんの治療環境がかなり違うことは頭に入れておく必要があります。
結果①:症状(いちばん大事な評価項目)では差が出なかった
この試験で最も重視されていたのは「症状がよくなるかどうか」でした。
評価には、臨床活動性指数(CAI)という点数を使っています。下痢の回数、血便、おなかの痛み、全身の調子などを点数にしたもので、点数が高いほど症状が強いことを表します。
最初の14週間で症状の点数がよくなった人は、
- FBRAのグループ:26人中6人(23.1%)
- 機能のない食品のグループ:26人中5人(19.2%)
で、統計的な差はありませんでした(p=0.73)。
ちなみに、入れかえたあとの後半の14週間では、むしろ機能のない食品を食べた人のほうが、症状がよくなった人の割合が高い結果でした(50.0% 対 36.4%)。
研究は「症状がよくなるか」を確かめるために計画されていて、その答えは「今回の試験では、よくなるとは言えなかった」ということになります。
結果②:話題の「高感度CRPの改善」をくわしく見る
ニュースの見出しになったのが、血液検査の高感度CRPです。論文には、2通りの解析結果が載っていました。
| 解析のしかた | FBRAのグループ | 機能のない食品のグループ | 改善した人の割合の比(95%信頼区間) |
|---|---|---|---|
| 全員で比べる(ITT解析) | 26人中17人(65.4%) | 26人中10人(38.5%) | 1.70(0.97〜2.98) |
| 途中でやめた人を除く(PPS解析) | 20人中15人(75.0%) | 24人中10人(41.7%) | 1.80(1.05〜3.08) |
信頼区間に「1.0(差がない)」が含まれていると、統計的にははっきりした差とは言えません。
- 全員で比べた解析:0.97〜2.98 → 1.0を含む=はっきりした差とは言えない
- 途中でやめた人を除いた解析:1.05〜3.08 → 1.0をぎりぎり上回る
プレスリリースで紹介されていたのは、後者の数字だけです。
赤沈(赤血球沈降速度)、白血球数、総たんぱく、アルブミンも「よくなる傾向」と報告されていますが、いずれも信頼区間に1.0を含んでおり、はっきりした差ではありませんでした。
「改善」とは、どのくらい下がったこと?
論文では、前より少しでも下がれば「改善」と数えています。どのくらい下がったら意味があるか、という基準は設けられていません。
さらに、試験開始時の高感度CRPの平均は、約0.1mg/dL(論文では約1,000μg/L)でした。これは、一般的な健康診断でも正常範囲に入る値です。
つまり今回の「改善」は、もともと正常範囲にあった値が、わずかに下がった人が多かった、ということになります。
潰瘍性大腸炎でCRPはどういう意味を持つ?
CRPは、体のどこかで炎症が起きると上がる血液の値です。潰瘍性大腸炎では、
- 炎症が強い時期(活動期)や、炎症の範囲が広いときに上がりやすい
- 症状が軽い時期や、炎症が直腸だけのときは正常範囲のことも多い
という特徴があります。今回の参加者も、寛解期〜軽症の方や、炎症が直腸だけの方(約4割)が多く含まれていました。
CRPは参考にはなるけれど、腸の中の状態をそのまま映すものではありません。 潰瘍性大腸炎の治療では、症状や便の検査(便中カルプロテクチンなど)、大腸カメラで粘膜の状態を確認して判断します。今回の試験では、大腸カメラでの粘膜の評価は行われていませんでした。
医師が見る「この結果の読み方」4つのポイント
ポイント1:途中でやめた人は、FBRAのグループに多かった
最初の14週間で途中でやめた人は、
- FBRAのグループ:26人中6人(吐き気2人、おなかの張り3人、ほかの臓器のがんの悪化1人)
- 機能のない食品のグループ:26人中2人(潰瘍性大腸炎の悪化)
でした。
「途中でやめた人を除く」解析では、FBRAが体に合わなかった人が抜け、続けられた人だけが残ります。 そのぶん、FBRAのグループの結果はよく見えやすくなります。CRPの差がこの解析でだけ出ている点は、慎重に受け止める必要があります。
ポイント2:人数が少なく、1施設・約20年前のデータ
各グループ26人という人数は、食品の効果を確かめるにはかなり少なめです。論文の著者自身も、「1施設であること」「期間が短いこと」「人数が少ないこと」を限界として挙げ、この研究は「探索的な研究」=次の研究を計画するための下調べ、と位置づけています。
ポイント3:「いちばん大事な項目」以外は、ヒント扱い
研究では、最初に「いちばん大事な項目(今回は症状)」を決めておき、それで結論を出すのが原則です。それ以外の血液の値をたくさん調べると、偶然どれかに差が出ることもあります。CRPの結果は、「次の大きな研究で確かめる価値があるかもしれないヒント」と考えるのが妥当です。
ポイント4:試験食品と資金の一部は、販売元の会社から
論文によると、試験に使った食品と、データ管理の費用の一部は株式会社玄米酵素から提供されています(著者は利益相反なしと申告)。研究は査読のある学術誌に載っており、手続きとしてはきちんとしたものです。
ただ、ニュースの見出しは、どうしてもよい結果が目立つように書かれます。 プレスリリース自体にも「症状では有意な改善が認められなかった」ことは書かれていますが、全員で比べた解析の結果や、途中でやめた人の内訳までは載っていません。気になるニュースは、見出しだけで判断しないことが大切です。
安全性:重い副作用はなかったが、「続けにくさ」はあった
試験期間中、入院や命に関わるような重い副作用は見られませんでした。
一方で、FBRAを食べた人のうち、
- 吐き気:2人
- おなかの張り:3人
- 発疹:1人(後半の期間)
が、食べるのをやめています。吐き気とおなかの張りは、やめたあとに治まったとのことです。
玄米・米ぬかは食物繊維が多い食品です。1日21gを毎日となると、それなりの量になります。おなかが張りやすい方、ガスがたまりやすい方は特に注意が必要です。
潰瘍性大腸炎の人は、玄米や発酵食品を食べてもいい?
「玄米は体によさそうだから、主食を全部玄米にしよう」と考える方もいるかもしれません。潰瘍性大腸炎では、時期によって考え方が変わります。
活動期(症状が出ているとき)
下痢や血便、腹痛があるときは、腸の粘膜が傷ついています。玄米のようにかたい食物繊維(不溶性食物繊維)が多い食品は、腸への刺激になったり、おなかが張ったりすることがあるため、この時期は無理に食べる必要はありません。 白米やおかゆなど、消化のよいものを中心にしましょう。
寛解期(症状が落ち着いているとき)
症状が落ち着いていれば、厳しい食事制限は基本的に不要です。玄米や発酵食品も、おなかの調子をみながら少しずつ取り入れて構いません。
時期別の食事の詳しい考え方は、こちらの記事でまとめています。
→ 潰瘍性大腸炎の食事ガイド|活動期・寛解期で食べていいもの・避けるべきもの
食物繊維の「とりすぎ」が気になる方はこちらも参考にしてください。
→ 食物繊維は摂りすぎると逆効果?医師が解説する適量と摂りすぎのサイン
サプリメントや健康食品を試すときの3つの約束
今回のように「炎症にいいかもしれない」という食品のニュースを見ると、試してみたくなるのは自然なことです。試す場合は、次の3つを守ってください。
- 今の治療薬は自己判断でやめない・減らさない
5-ASA製剤(メサラジンなど)や免疫を調整する薬は、再燃を防ぐために飲んでいます。今回の試験でも、参加者の多くは5-ASA製剤を続けたまま参加していました。食品に置きかえると、再燃のリスクが高まります。 - 始める前に主治医に伝える
「何を・どのくらい」とっているかを伝えておくと、体調が変わったときに原因を考えやすくなります。 - 1つずつ、少量から始める
一度にいくつも始めると、おなかの調子が変わっても何が原因か分かりません。吐き気やおなかの張りが出たら、無理に続けないでください。
再燃のサインについてはこちらの記事も参考にしてください。
→ 潰瘍性大腸炎の「再燃サイン」を医師が解説|寛解期の初期症状7つ
よくある質問(FAQ)
Q. 玄米酵素(FBRA)は潰瘍性大腸炎に効果がありますか?
A. 今回の臨床試験では、いちばん大事な評価項目だった「症状の改善」で差は出ませんでした。炎症の値(高感度CRP)も、全員で比べた解析でははっきりした差とは言えず、途中でやめた人を除いた解析でのみ差が出ています。今の段階で「効果がある」とは言えません。
Q. 潰瘍性大腸炎でCRPはどのくらいの数値になりますか?
A. 炎症が軽いときや直腸だけのときは正常範囲(0.3mg/dL未満程度)のことも多く、炎症が強く広い時期には大きく上がることがあります。CRPだけでは腸の中の状態は分からないため、症状・便の検査・大腸カメラを組み合わせて判断します。
Q. 薬をやめて、FBRAなどの食品に切りかえてもいいですか?
A. おすすめしません。今回の研究も、薬の代わりになるかを調べたものではなく、参加者の多くは薬を続けたまま参加していました。食品を取り入れたい場合は、治療薬は続けたまま主治医に相談してください。
Q. 潰瘍性大腸炎で玄米を食べてもいいですか?
A. 症状が落ち着いている寛解期なら、おなかの調子をみながら取り入れて構いません。下痢や血便がある活動期は、白米やおかゆなど消化のよい主食を選びましょう。
Q. 潰瘍性大腸炎におすすめのサプリメントはありますか?
A. 現時点で、治療として推奨されているサプリメントはありません。鉄欠乏性貧血など、不足している栄養素を医師の判断で補うことはあります。気になるものがあれば、自己判断せず主治医に相談してください。
まとめ
- 玄米と米ぬかを麹菌で発酵させた食品「FBRA」の、潰瘍性大腸炎の臨床試験結果が2026年10月に発表されました(データは2006〜2007年のもの)
- いちばん大事な「症状の改善」では、差は出ませんでした
- 話題の高感度CRPは、全員で比べるとはっきりした差とは言えず、途中でやめた人を除いた解析でのみ差が出ました。もともと正常範囲の値が、わずかに下がった人が多かったという結果です
- FBRAのグループでは、吐き気やおなかの張りで4人に1人ほどが途中でやめています
- 著者自身も「探索的な研究」としており、「さらに確かめる価値があるかもしれないヒント」の段階です
- 試すなら、治療薬は続けたまま、主治医に相談してから、少量で
潰瘍性大腸炎は、薬の進歩でコントロールしやすくなってきた病気です。新しい治療薬の話題はこちらでも紹介しています。
→ 潰瘍性大腸炎の治療指針が改訂されました ── 令和7年度版で新しく加わった2つの治療薬
食事は治療の「主役」ではなく「支え役」。うまく付き合いながら、今の治療をしっかり続けていきましょう。
参考文献・情報源
- 株式会社玄米酵素「玄米・米糠発酵食品(FBRA)、潰瘍性大腸炎患者を対象とした研究で、炎症の指標”高感度CRP”の改善を確認」PR TIMES, 2026年10月15日
- Ishikawa H, Onishi Y, Kataoka K, Murakami Y, Mutoh M, Kobayashi H. Efficacy of Fermented Brown Rice by Aspergillus oryzae (FBRA) in Ulcerative Colitis: A Double-blind Randomized Trial. JGH Open. 2026;10(10). doi:10.1002/jgh3.70476
- 臨床試験登録:UMIN000009364

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