潰瘍性大腸炎の治療指針が改訂されました ── 令和7年度版で新しく加わった2つの治療薬

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潰瘍性大腸炎の治療指針 令和7年度改訂版の解説記事のアイキャッチ画像

はじめに

2026年3月に治療指針が改訂されたことを伝えるイラスト

潰瘍性大腸炎の患者さんやご家族にとって、治療の選択肢が広がることは大きな関心事ではないでしょうか。

2026年3月31日付で、厚生労働省の研究班から「潰瘍性大腸炎・クローン病 診断基準・治療指針 令和7年度改訂版」が公開されました。この指針は日本のIBD(炎症性腸疾患)診療において、医師が実際の診療で最も活用している規範のひとつです。

今回の改訂では、潰瘍性大腸炎の治療に関して、新たに2種類の薬剤が選択肢として加わりました。本記事ではその内容を、患者さんやご家族にも分かりやすい言葉で解説します。

なお、クローン病の改訂ポイントについては別の記事でお伝えする予定です。

「診断基準・治療指針」とはどんなものでしょうか

日本のIBD診療の道しるべとなる診断基準・治療指針を表すイラスト

「診断基準・治療指針」は、厚生労働科学研究費補助金の難治性疾患政策研究事業「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究」(久松班)が毎年改訂している、いわば日本のIBD診療の道しるべです。

潰瘍性大腸炎は国の指定難病に認められており、診断や治療には全国で統一された基準が必要になります。この指針は専門医が議論を重ねて作成しているため、日々の診療現場で最も活用されている資料といえるでしょう。

毎年の改訂では、新しく保険適用となった薬剤や、最新の臨床試験の結果が反映されます。患者さんにとっては、「自分の治療に新しい選択肢が増えていないか」を知る機会にもなります。

令和7年度改訂のポイントは「新しい治療薬2つの追加」

令和7年度改訂で追加された2つの新規治療薬を示すイメージイラスト

潰瘍性大腸炎の治療指針における今回の主な改訂内容は、既存の治療で効果が不十分な中等症から重症の患者さんに対して、新たな治療薬が2つ加わったことです。

具体的には、

  • グセルクマブ(商品名:トレムフィア®)
  • エトラシモド(商品名:ベルスピティ®)

の2剤になります。これらは作用の仕組みが大きく異なるため、患者さんごとに合った薬剤を選びやすくなったといえるかもしれません。

それぞれの薬剤について、もう少し詳しく見ていきましょう。

1つ目の新薬:グセルクマブ(トレムフィア®)

IL-23阻害薬グセルクマブ(トレムフィア®)による炎症抑制の作用機序イメージ

どんな薬でしょうか

グセルクマブは、体内の炎症に関わる「インターロイキン23(IL-23)」という物質の働きを抑える注射薬です。IL-23は、潰瘍性大腸炎の腸の炎症を引き起こす過程で重要な役割を担っていることが分かっています。

このIL-23の働きをピンポイントで抑えることにより、過剰に活性化した免疫の流れを鎮め、腸の炎症を抑えるしくみになっています。

どのように使うのでしょうか

治療指針では、寛解導入療法(炎症を鎮める治療)として点滴または皮下注射で開始し、その後、寛解維持療法(落ち着いた状態を保つ治療)を皮下注射で続ける使い方が示されています。

維持療法が皮下注射である点は、通院の負担を軽くする可能性があり、患者さんのライフスタイルに合わせやすい特徴のひとつです。

どんな方が対象でしょうか

これまでの治療で効果が十分でなかった、中等症から重症の患者さんが対象です。すでに5-ASA製剤やステロイド、抗TNF-α抗体製剤などを使ったうえで効果が不十分だった方にとって、新しい選択肢が加わったことになります。

2つ目の新薬:エトラシモド(ベルスピティ®)

S1P受容体調節薬エトラシモド(ベルスピティ®)がリンパ球を制御するイメージ

どんな薬でしょうか

エトラシモドは「S1P受容体調節薬」と呼ばれるグループの飲み薬です。少し難しい名前ですが、しくみをやさしく言い換えてみます。

私たちの体の免疫細胞であるリンパ球は、リンパ節という基地から血液中に出ていって、全身を巡ります。潰瘍性大腸炎では、このリンパ球が腸に集まりすぎて、過剰な炎症を起こしている状態です。

エトラシモドは、リンパ球をリンパ節の中にとどめておき、腸へ移動するのを抑える働きがあります。「炎症を起こす細胞が腸へ来ないようにする」と考えると分かりやすいかもしれません。

経口剤であることの意味

エトラシモドは1日1回の飲み薬です。注射や点滴を必要としないため、通院の頻度や負担という観点からも、患者さんにとって取り入れやすい治療といえるでしょう。

これまで中等症から重症の潰瘍性大腸炎の治療薬は注射薬や点滴薬が中心でしたが、新しい飲み薬の選択肢が増えたことは、大きな変化のひとつです。

安全性についての注意点

S1P受容体調節薬では、投与初期に脈が遅くなる現象や、心臓の伝導に関する変化、まれに目の黄斑部のむくみが起こる可能性があることが知られています。そのため治療を始める前には、心電図検査や眼科での確認など、適切な評価を行ったうえで使用されます。

患者さんへのメッセージ

潰瘍性大腸炎の患者さんが主治医に相談する様子のイラスト

新しい薬剤が増えたとはいえ、潰瘍性大腸炎の治療は「自分に合った薬を、適切な時期に使う」ことが何より大切です。今回の改訂で新薬が加わったからといって、現在の治療がうまくいっている方が、すぐに切り替える必要があるわけではありません。

一方で、これまでの治療で症状のコントロールが十分でなかった方にとっては、新しい選択肢が加わったという朗報でもあります。気になる点があれば、ぜひ主治医に相談してみてください。

潰瘍性大腸炎は、適切な治療を続けることで、健康な方とほとんど変わらない日常を送ることが十分に可能な病気です。新しい治療指針も、その実現を後押しするためにあるものといえるでしょう。

より詳しく知りたい方へ

IBD研究班の公式資料を案内する書類のイメージイラスト

今回の改訂版の原本は、難治性炎症性腸管障害に関する調査研究班(IBD研究班)のウェブサイトで公開されています。

クローン病の改訂ポイントについては、別の記事でご紹介します。

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この記事を書いた人

消化器内科医(卒後20年)
市中病院で内視鏡・炎症性腸疾患・消化器がん化学療法を専門に診療
消化器病学会専門医/消化器内視鏡学会専門医/総合内科専門医

むずかしい医学を、やさしい言葉で

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