潰瘍性大腸炎(UC)は、大腸の粘膜に炎症が起こる慢性の病気として知られています。けれども、その影響は腸だけにとどまりません。気分の落ち込みや不安といった「心」の不調を抱える方も少なくないことが、国内外の研究で報告されています。
この記事では、UCと心の関係について、最新の研究データを「日本のデータ」と「海外のデータ」に分けて、そして「症状」と「診断」を混同しないように、できるだけ正確にお伝えします。あわせて、ご自身やご家族でできるセルフチェックと、相談のヒントもご紹介します。
※潰瘍性大腸炎そのものの症状・原因・治療については、こちらの記事で詳しく解説しています。あわせてご覧ください。
▶ 潰瘍性大腸炎とは|症状・原因・治療・食事を消化器内科医が解説
この記事のポイント
- 日本のUC患者さんの35%以上に、うつ・不安の「症状」がみられたと報告されています(=スクリーニング上の症状で、医師の「診断」とは異なります)。
- 脳と腸は影響し合っています。腸の症状を抑えることは、心や生活の安定にもつながりうると考えられます。
- 「2つの質問(Whooley質問法)」は、心の状態に気づくための手軽なセルフチェックです。
- つらさが続くときは、ためらわず主治医に相談を。心と腸の両方を診るケアが、これからのUC診療の一つの形です。
UCの患者さんに、うつ・不安の「症状」はどれくらいみられる?

日本のデータ
治療中の日本人UC患者293人を対象にした調査(2017・2019・2021年の日本国民健康・福祉調査のデータを利用)では、35%以上の方に、程度の差はあれ、うつや不安の「症状」がみられたと報告されています。1)
- うつ症状(PHQ-9という自己記入式の質問票):なし 約65%/軽度〜重度 約35%
- 不安症状(GAD-7という質問票):最小 約63%/軽度〜重度 約37%
ここで大切なのは、これらは「スクリーニング(ふるい分け)の質問票」で評価した”症状”であって、医師が下す「うつ病」「不安症」という”診断”とは異なるという点です。点数が高い=必ず病気、というわけではありません。それでも、「腸の治療を受けていても、心の負担を感じている人が一定数いる」ことを示す、大切なサインといえます。
海外のデータ
世界23か国・77の研究(約3万人)をまとめた大規模な解析では、IBD(UCとクローン病)の患者さんの約3人に1人に不安症状、約4人に1人にうつ症状がみられました。UCに限ると、不安症状34.2%、うつ症状24.0%と報告されています。2) こちらも「症状」の頻度で、活動期(症状が強い時期)のほうが高い傾向がありました。
「症状」と「診断」はちがいます
PHQ-9・GAD-7などの質問票は、あくまで心の状態に気づくための”ものさし”です。当てはまったからといって、すぐに「病気」と決まるわけではありません。気になるときは、自己判断せず専門家に相談することが大切です。
なぜUCで心の不調が起きやすいの?

脳と腸は、自律神経やホルモン、免疫を介して、双方向に影響し合っています。これを「脳腸相関(のうちょうそうかん)」と呼びます。腸内環境と心身のつながりについては、腸活の始め方(入門ガイド)でもやさしく解説しています。さらに、UCそのものがもつ負担が重なります。
- 急な下痢・便意・腹痛で、外出や仕事・学校の予定が立てづらい
- 「トイレが気になる」状態が、いつもストレスになる
- 食事の工夫(潰瘍性大腸炎の食事ガイド)、毎日の服薬、再燃のサインへの不安
- まわりに理解されにくい/相談しづらいと感じる
こうした日常の積み重ねが気分や不安に影響し、それがまた腸の症状やQOL(生活の質)に跳ね返る——という循環が起こりうると考えられています。3)(ストレスと腸の症状の関係は、ストレスで血便は出る?の解説記事もご参照ください。)
「症状がある時期」は、生活への影響も大きい

先ほどの日本の調査1)では、持続する症状があるUC患者さんは、症状がない患者さんに比べて、仕事の生産性の低下(欠勤や、出勤しても十分に働けない状態など)や日常活動の制限が大きく、生活の質の指標(EQ-5D-5L、SF-36v2)も低いことが、統計的に有意に示されました。
裏を返せば、「腸の症状をしっかり抑えること」が、心や生活全体の安定にもつながる可能性があるということです。
睡眠とUCの関係(日本のデータ)

日本のUC患者68人を対象にした研究4)では、慢性的に睡眠が不足している群は、そうでない群に比べて、精神疾患の併存、抗うつ薬・睡眠薬の使用、治療内容の変更を経験した割合が高い、という関連がみられました。
ただし、これは「関連(同時にみられやすい傾向)」を示したもので、「睡眠不足が治療変更の”原因”」と断定できるものではありません。それでも、睡眠は心と腸の両方を支える大切な土台です。眠りの不調が続くときは、軽く考えずに相談してみてください。
UCと睡眠の関係については、潰瘍性大腸炎と不眠の関係(悪化・発症リスク)でより詳しく解説しています。
早めの「心のケア」が、その後に関わるかもしれない(海外データ)
海外で、中等症〜重症のUC患者354人を5年間追跡した研究5)では、診断された時点で不安症状があった人は、3年後の生活の質の指標が、症状がなかった人より低めだったと報告されています。
「腸の状態」だけでなく「心の状態」にも、診断の早い段階から目を向け、必要に応じてケアにつなぐことの大切さを示すデータといえます。
セルフチェック:こころの「2つの質問」

うつのスクリーニングに、世界で広く使われている「2つの質問(Whooley質問法)」があります。6)
この1か月の間に……
- 気分が沈んだり、憂うつな気持ちになったりすることが、よくありましたか?
- どうしても物事に対して興味がわかない、あるいは心から楽しめない感じが、よくありましたか?
2つのうち1つでも「はい」なら、一度立ち止まって心の状態を振り返るサインです。
これは診断ではなく、あくまで”気づき”のきっかけです。当てはまったからといって慌てる必要はありませんが、つらさが続くようなら、ためらわず相談してください。
つらいと感じたら、どうすればいい?

- まずは主治医(消化器内科)に伝える。腸の症状とあわせて、「気分」「眠れなさ」「不安」も率直に。心の不調は、腸の治療方針を考えるうえでも大切な情報です。
- 必要に応じて専門家へ。主治医から、精神科・心療内科やカウンセラーへの紹介を検討してもらえます。
- 「多職種でのケア」という考え方。UCのような慢性疾患では、消化器内科だけでなく、看護・栄養・メンタルヘルスなど複数の専門職が連携して支える形が役立つと考えられています。3)
- 一人で抱え込まない。家族や信頼できる人、患者会なども、大きな支えになります。
こころのつらさが強いとき
気持ちの落ち込みや不安が長く続く、眠れない、何も手につかない——そんなときは、我慢せず専門家を頼ってください。どこに相談すればよいか迷うときは、厚生労働省のこころの健康支援サイト「まもろうよ こころ」も入口になります。緊急性が高いと感じる場合は、ためらわず医療機関にご相談ください。
まとめ
- 日本のUC患者さんの35%以上に、うつ・不安の“症状”がみられると報告されています。ただしこれは「診断」ではなく、質問票によるスクリーニング上の症状です。
- 脳と腸は影響し合っています。腸の症状を抑えることは、心や生活の安定にもつながりうると考えられます。
- 睡眠や心の状態は、UCの経過とも関連します(ただし因果関係は別の問題として、慎重にみる必要があります)。
- 「2つの質問」で気づき、つらさが続くときは早めに相談を。
- 心と腸、その両方を診る——それが、これからのUCケアの一つの形です。
症状がないうちに腸を守る。そして、心の声にも早めに気づく。難しい医学を、やさしい言葉で、これからもお届けします。
※本記事は、査読付き論文などの公的・学術的な情報をもとに、一般の方向けにわかりやすく解説したものです。個別の診断・治療に代わるものではありません。症状や治療についての判断は、必ず主治医にご相談ください。
参考文献
- Hiraoka S, et al. Health-related quality of life, work productivity, and persisting challenges in treated ulcerative colitis patients: a Japanese National Health and Wellness Survey. Intest Res. 2025;23(4):524-540. https://doi.org/10.5217/ir.2024.00104(日本のデータ。本研究はBristol Myers Squibb社の資金提供を受けて実施され、一部著者は同社の社員・株主、監修者は同社より謝礼を受領しています。)
- Barberio B, et al. Prevalence of symptoms of anxiety and depression in patients with inflammatory bowel disease: a systematic review and meta-analysis. Lancet Gastroenterol Hepatol. 2021;6(5):359-370. https://doi.org/10.1016/S2468-1253(21)00014-5(海外データ/メタ解析)
- Devlen J, et al. The burden of inflammatory bowel disease: a patient-reported qualitative analysis and development of a conceptual model. Inflamm Bowel Dis. 2014;20(3):545-552.
- Oyama H, et al. Chronic sleep deprivation and the relationship with treatment changes in patients with ulcerative colitis. J Crohns Colitis. 2025;19:jjae116. https://doi.org/10.1093/ecco-jcc/jjae116(日本のデータ。製薬企業の支援を含む研究です。)
- Oh SJ, et al. Gut Liver. 2025;19(2):253-264.(海外データ)
- Whooley MA, et al. Case-finding instruments for depression. Two questions are as good as many. J Gen Intern Med. 1997;12(7):439-445.

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