胃がんの治療、ここまで来ています ─ 「HER2(ハーツー)」って、なに?

*このサイトはアフィリエイト広告(Amazonアソシエイト含む)を掲載しています。

こんにちは。今日は、進行した胃がんの治療について、最近発表された希望のあるニュースをお届けします。

「胃がん」と聞くと、こわい病気というイメージが強いかもしれません。健康診断のたびに胃カメラの予約票を見てため息をついてしまう方もいらっしゃるでしょう。でも実は、胃がんの世界では今、“がんの個性”に合わせて薬を選ぶ時代に少しずつ変わってきています。「胃がん=みんな同じ治療」ではなくなってきている、ということです。

今日のキーワードは、ちょっと聞き慣れない名前ですが——

HER2(ハーツー)

これを知っているかどうかで、進行胃がんの治療の見え方がぐっと変わってきます。できるだけやさしい言葉でお話ししますので、お茶でも飲みながら読んでみてください。

目次

HER2って、そもそも何のこと?

私たちの体の細胞の表面には、いろんな”アンテナ”のようなタンパク質がついています。HER2は、そのアンテナの一種。本来は、細胞が育つときの合図を受け取る、まじめな働き者です。

ところが、胃がんの一部では、このHER2アンテナがふつうよりずっとたくさん出ていることがあります。これを「HER2陽性」と呼びます。アンテナがたくさんあると、がんが「もっと増えろ、もっと増えろ」という合図をたくさん受け取ってしまい、勢いよく増えてしまうのです。

胃がん患者さんのうち、おおよそ15〜20%くらいがHER2陽性と報告されています。決して珍しいタイプではありません。だからこそ、進行胃がんと診断された場合には「自分のがんがHER2陽性かどうか」を調べることがとても大事になってきます。

調べ方はシンプルで、胃カメラのときに採取した組織を病理検査に出すことで分かります。新たに針を刺すような大がかりな検査が必要なわけではありません。もしまだ調べていなければ、主治医に「私のがんはHER2陽性ですか?」と聞いてみてもよい質問です。

“アンテナを狙い撃つ”お薬の話

このHER2というアンテナをめがけて、ピンポイントで攻撃するお薬があります。今回ご紹介するのが、トラスツズマブ デルクステカン(製品名:エンハーツ®)というお薬です。

ちょっと例えるなら——

「HER2アンテナ」という住所をたよりに、抗がん剤を“宅配便”でがん細胞のドアまで届ける

そんなイメージのお薬です。むやみに体じゅうに薬をばらまくのではなく、目的地に届ける仕組みなので、効率よく効くことが期待されています。専門用語では「抗体薬物複合体(ADC)」と呼ばれるタイプのお薬で、いま世界中のがん治療で注目されているジャンルです。

最新の研究結果(DESTINY-Gastric04試験)

2025年に発表され、2026年3月に日本胃癌学会のガイドライン委員会も正式にコメントを出した大きな国際共同研究があります。それがDESTINY-Gastric04試験です。

対象は、HER2陽性で、すでに一度治療を受けたあとの進行・再発胃がん(および胃食道接合部がん)の患者さんです。トラスツズマブ デルクステカンを使ったグループと、これまでよく使われてきた治療(ラムシルマブ+パクリタキセル)を使ったグループを比較しました。

項目トラスツズマブ デルクステカン従来治療
全生存期間(中央値)14.7か月11.4か月
治療効果が現れた人の割合44.3%29.1%

亡くなるリスクが約30%下がったという結果でした。

「3か月の延命」と聞くと、人によっては短く感じるかもしれません。でも、進行・再発胃がんの世界では、これはとても大きな前進です。そしてこの「中央値」というのは”真ん中の人”の数字なので、もっと長く効果が続く方もいらっしゃいます。

そして2026年3月には、日本胃癌学会のガイドライン委員会が、この結果について正式にコメントを公表しました。つまり、「HER2陽性の進行胃がんで、最初の治療のあとの”2番目の治療”の新しい標準になりうる」と、国内の専門家からも位置づけられたということです。

副作用は? 「いいことばかり」ではないけれど

新しいお薬の話をするとき、効果だけを伝えるのはフェアではないので、副作用にも触れておきます。

トラスツズマブ デルクステカンでは、吐き気や倦怠感、白血球が下がるといった、いわゆる抗がん剤らしい副作用に加え、「間質性肺炎(かんしつせいはいえん)」という肺の副作用に注意が必要なお薬として知られています。空咳や息切れ、発熱が出てきたら、がまんせずすぐに主治医へ。「ちょっとした風邪かな?」のサインを見逃さないことが、安全に治療を続けるコツです。

ただ、DESTINY-Gastric04試験では、重い副作用が出た割合は従来治療と大きくは変わらなかったとも報告されています。「効果は上がったのに副作用は同じくらい」というのが、このお薬の大きな価値と言えそうです。

ここから私たちが学べる3つのこと

「むずかしい話だな」と感じた方も大丈夫。覚えていただきたいのはこの3つだけです。

  1. 胃がんは”ひとくくり”ではない。 がんごとに性格(個性)があって、HER2もそのひとつ。同じ「胃がん」でも、合うお薬は人によって違います。
  2. HER2の有無は検査でわかります。 進行胃がんと診断された場合、HER2検査が治療方針を決める大事なカギです。診断書に「HER2」の文字があるか、確認してみてください。
  3. 治療の選択肢は、年々増えています。 数年前には無かった薬が、今では当たり前になっていることもあります。「もう打つ手がない」と決めつけず、主治医と一緒に最新の選択肢を確認してみてください。

最後に — 「症状がないうちに」がいちばん大事

今日は進行した胃がんの治療のお話でしたが、いちばん伝えたいのは、やっぱりこれ。

症状が出てからではなく、症状がないうちに胃カメラを受けておく。

胃がんは、早期に見つかれば内視鏡だけで治せることも多い病気です。お腹が痛くなってから、食べられなくなってから、体重が落ちてから——では、せっかくの早期発見のチャンスを逃してしまいます。

「忙しいから来年でいいか」を、どうか今年に変えてください。腸も胃も、あなたが思っている以上に毎日がんばってくれていますから、1年に1回くらい、ねぎらいの気持ちでカメラを向けてあげてほしいのです。

新しいお薬の話は希望のニュースですが、いちばんの希望は、そもそも進行した状態で見つけないこと。これに勝る予防はありません。

※この記事は一般的な情報提供を目的としています。実際の治療方針については、必ず主治医とご相談ください。

参考にした情報

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

消化器内科医(卒後20年)
市中病院で内視鏡・炎症性腸疾患・消化器がん化学療法を専門に診療
消化器病学会専門医/消化器内視鏡学会専門医/総合内科専門医

むずかしい医学を、やさしい言葉で

コメント

コメントする

CAPTCHA


目次