この記事を書いた人:消化器内科医(卒後20年) 監修:本サイト運営医師 最終更新日:2026年4月29日 参考:日本消化器病学会「胃食道逆流症(GERD)診療ガイドライン2021(改訂第3版)」
「胸やけが続いて夜も眠れない」「ゲップと一緒に酸っぱいものが上がってくる」――そうしたお悩みで本記事にたどり着いた方が多いのではないでしょうか。
逆流性食道炎は、日本人の有病率が約10%と推定される、ごく身近な消化器の病気です。一方で、放置するとバレット食道や食道腺がんへ進展しうる側面もあり、正しい知識と治療が欠かせません。
本記事では、消化器内科医として20年間の診療経験から、最新ガイドラインに沿った「治し方」を、専門用語をかみ砕いて解説します。
この記事でわかること
- 逆流性食道炎のセルフチェック(症状の見分け方)
- 原因と、悪化させてしまう習慣
- 治療の中心となる薬(PPI・P-CAB)の違い
- 自宅でできる生活習慣の改善ポイント
- 病院を受診すべきタイミング
- よくある質問への医師の回答
逆流性食道炎とは|まずは病気の全体像をつかむ

逆流性食道炎は、胃酸や胃の内容物が食道へ逆流し、食道粘膜に炎症が起こる病気です。正式には「胃食道逆流症(GERD: Gastroesophageal Reflux Disease)」の一型で、内視鏡で炎症が確認できるタイプを「逆流性食道炎(びらん性GERD)」と呼びます。
食道と胃のつなぎ目には「下部食道括約筋(LES)」という弁の役目をする筋肉があり、通常は胃の内容物が逆流しないように閉じています。この働きが弱まったり、腹圧が高まったりすると、強酸性の胃酸が食道へ流れ込んでしまうのです。
食道の粘膜は胃と違い、酸から身を守る粘液バリアを持ちません。そのため、わずかな逆流でも炎症や潰瘍を起こしやすい構造になっています。
逆流性食道炎(びらん性GERD)とNERD(非びらん性GERD)の違い
GERDは内視鏡所見によって2つに分類されます。
| 分類 | 内視鏡所見 | 特徴 |
|---|---|---|
| 逆流性食道炎(びらん性GERD) | 食道粘膜にびらん・潰瘍あり | PPI/P-CABが効きやすい |
| 非びらん性胃食道逆流症(NERD) | 症状はあるが粘膜は正常 | 様々な病態を含み、酸分泌抑制薬の有効性が確立していない |
日本消化器病学会のガイドライン2021によると、日本人の逆流性食道炎の有病率は約10%、GERD症状を訴える人の割合(有訴者率)は約17.7%と報告されています。この差から、NERDはGERDの半数以上を占めるとされています。
「胸やけがあるのに胃カメラで異常なし」と言われたケースの多くは、NERDに該当します。NERDは女性、低体重、食道裂孔ヘルニアの合併が少ない方に多い傾向があり、酸以外の逆流や食道知覚過敏が症状に関与していることが知られています。
こんな症状があれば要注意|セルフチェック

以下に1つでも心当たりがあり、週2回以上続いている方は、逆流性食道炎の可能性があります。
- 胸の中央あたりが焼けるように熱い、痛い(胸やけ)
- 酸っぱい水・苦い水が口まで上がってくる(呑酸)
- 食後にゲップが多い、ゲップと一緒に胃酸が逆流する
- 喉に違和感、つかえ感、声がかすれる
- 横になると咳が出る、夜中に咳で目が覚める
- 食べ物がのみ込みにくい
- みぞおちの痛み
胸やけと呑酸は、ガイドライン2021でも「定型症状」として位置づけられています。
見落とされやすい「食道外症状」
ガイドライン2021では、GERD関連の食道外症状として、非心臓性胸痛、慢性咳嗽、喘息、咽喉頭症状、睡眠障害、歯の酸蝕症が挙げられています。中でも以下は見落とされやすい盲点です。
- 慢性咳嗽:GERを伴う原因不明の慢性咳嗽に対するPPIの治療効果は限定的とされる一方、関連は否定できない
- 喘息:GERDとの合併頻度が高く、PPIで喘息が改善する場合がある
- 睡眠障害:GERDが原因となりうる(PPIで改善が報告されている)
- 歯の酸蝕症:胃酸の逆流による歯牙溶解の合併が知られる
「3か月以上続く咳で呼吸器内科に通っているが原因不明」という方の中に、GERDが隠れているケースが一定数存在します。
逆流性食道炎の原因|なぜ胃酸が逆流するのか

ガイドライン2021では、GERDの誘発因子として複数の要素が挙げられています。
1. 下部食道括約筋(LES)の機能低下
LESを緩める代表的な要因は以下の通りです(ガイドライン2021 BQ2-8より)。
- 高脂肪食:十二指腸からのコレシストキニン分泌を増加させ、一過性LES圧弛緩を生じる
- 喫煙:特に肥満者の喫煙はLESを弛緩させ逆流を誘発する
- カルシウム拮抗薬・亜硝酸塩などの薬剤:LES圧を低下させる
- 過食による胃の伸展刺激
2. 食道裂孔ヘルニアの存在
横隔膜にある食道の通り道(食道裂孔)から、胃の上部が縦隔内に脱出した状態を食道裂孔ヘルニアといいます。これがあると逆流防止機構が崩れ、胃内容物が逆流しやすくなります。後天性の要因として、腹腔内圧の上昇(妊娠、肥満、長期臥床)、加齢による亀背、筋肉や靭帯の脆弱化が挙げられています。
3. 胃酸分泌の増加
ピロリ菌感染率の低下に伴い、健康な胃を持つ日本人が増えました。逆説的ですが、胃が健康だからこそ胃酸分泌が活発で、特に若年者で胃酸分泌能が増加してきていることが報告されています。ピロリ菌の除菌後にGERDを発症する方も少なくありません。
4. 腹圧の上昇
肥満(特に内臓脂肪型肥満)、高齢・骨粗鬆症に起因する円背、長期臥床、妊娠などが腹圧を上げ、逆流のリスクを高めます。
5. その他の誘発因子
- 食後すぐの就寝による長時間の食道酸曝露
- 激しい運動、筋力トレーニング
- ストレスや睡眠時間の短縮(中枢性の食道知覚過敏により症状が出やすくなる)
逆流性食道炎の診断|胃カメラ検査の重要性

「症状だけで診断はつくのでは?」と思われるかもしれません。確かにPPI(後述)を1〜2週間服用して症状が改善すれば、GERDの可能性は高いと判断できます(PPIテスト)。
しかし、消化器内科医の立場から強く申し上げたいのは、一度は胃カメラを受けていただきたいということです。理由は3つあります。
- 食道がん・胃がんは、胸やけや違和感といった「GERDによく似た症状」で発症することがある
- 逆流性食道炎の重症度(LA分類グレードA〜D)は治療方針を左右する
- バレット食道(腺がんのリスク因子)の有無を確認できる
重症度の分類(改訂ロサンゼルス分類)
| グレード | 所見 |
|---|---|
| N | 正常 |
| M | 色調変化のみ |
| A | 5mm以下のびらん |
| B | 5mmを超えるびらん |
| C | びらんが融合(全周の75%未満) |
| D | びらんが全周の75%以上 |
A・Bが軽症、C・Dが重症の目安です。グレード分類は酸の逆流の程度、治療反応性、PPI維持療法中の再発リスクと相関することが報告されています。
ガイドライン2021によると、逆流性食道炎では出血が約9.0%、狭窄が約3.4%に合併し、高齢、向精神薬の併用、グレードB以上の重症例が合併症のリスク因子とされています。
逆流性食道炎の治し方|治療の3本柱

日本消化器病学会のガイドライン2021では、以下の3つを軸に治療方針が示されています。
① 薬物療法(治療の中心)
第一選択:酸分泌抑制薬
| 薬剤の種類 | 代表的な薬剤(一般名) | 特徴 |
|---|---|---|
| P-CAB(カリウムイオン競合型アシッドブロッカー) | ボノプラザン | 効果発現が早く、酸抑制が強力。重症例や夜間症状に有効 |
| PPI(プロトンポンプ阻害薬) | ランソプラゾール、エソメプラゾール、ラベプラゾール等 | 長年の実績があり、第一選択として広く使用 |
| H2ブロッカー | ファモチジン等 | PPI/P-CABより効果は弱いが、頓用や軽症に使われる |
ガイドライン2021では、軽症逆流性食道炎の初期治療としてPPIとP-CABの両方が推奨されています。長期維持療法ではPPIが推奨され、P-CABが提案されています。両薬とも、有症状時のみ内服する「オンデマンド療法」も可能です。
重症逆流性食道炎の初期治療には、ボノプラザン20mg/日の4週間投与が提案されています。これは、PPIでは重症逆流性食道炎の3〜4割で治癒が得られないとされる一方、P-CABが投与当日から十分な酸分泌抑制効果を示すためです。重症例の長期管理では、内視鏡的再燃率の低さからボノプラザン10mg/日が提案されています。
「PPIを飲んでも効かない」というPPI抵抗性GERD(標準量を8週間内服しても改善しない状態)の場合、P-CABへの切り替え、PPI倍量・1日2回投与、消化管運動改善薬や漢方薬(六君子湯、半夏瀉心湯など)の併用が検討されます。
補助的に使われる薬
- 消化管運動機能改善薬(モサプリド、アコチアミド等)
- 制酸薬・アルギン酸塩
- 漢方薬(六君子湯、半夏瀉心湯)
② 生活習慣の改善
ガイドライン2021では、薬と並行して生活指導も適宜行うことが推奨されています(後述で詳しく解説)。
③ 外科治療(手術)
PPI抵抗性GERD、長期的なPPI維持投与を要するGERD、食道外症状を有するGERDでは、腹腔鏡下逆流防止手術が検討されます。代表的な術式は腹腔鏡下のNissen法とToupet法です。
ただし、長期的なPPI維持療法と比較して、手術の長期成績が同等以上とまでは言えないとされています。費用対効果を含め、専門医とよく相談することが重要です。
自宅でできる|逆流性食道炎を改善する生活習慣

ここからは、薬と並んで重要な生活改善のポイントです。
ガイドライン2021でRCT(無作為化比較試験)により有効性が示されている4つの方法
ガイドライン2021では、以下の4つの生活習慣の改善・変更が、有効性を示すエビデンスがあるものとして挙げられています。
1. 肥満者の減量
過食・運動不足による肥満(特に内臓脂肪型肥満)は、腹腔内圧および胃内圧の上昇によってLESの機能低下を引き起こします。減量により症状が改善することが示されています。
2. 喫煙者の禁煙
特に肥満者の喫煙はLESを弛緩させ、逆流を誘発します。禁煙により逆流症状が減少することが示されています。
3. 遅い夕食の回避(夜間症状がある方)
食後すぐの就寝は長時間の食道酸曝露につながります。夕食は就寝の3時間前までに済ませるのが目安です。
4. 就寝時の頭位挙上
仰向けで寝ると食道と胃が水平になり、夜間の逆流が増えます。ベッドの頭側全体を高くするか、楔形の傾斜枕を使うと効果的です。枕を高くするだけでは首だけ曲がってしまうため、上半身全体を起こす形が望ましいとされています。
補足的に推奨される生活習慣(臨床現場の知見)
ガイドラインの誘発因子(BQ2-8)に挙げられている要素から、以下も避けることが望ましいと考えられます。
- 過食・早食い
- 高脂肪食(揚げ物、脂身の多い肉、生クリームなど)
- 食後すぐに横になる
- きついベルトやコルセット(腹圧上昇)
- 激しい運動・筋力トレーニング(LES圧低下や逆流誘発の報告あり)
- ストレス・睡眠不足の管理
市販薬で治せる?|医師の本音

ドラッグストアでもH2ブロッカー(ガスター10など)や制酸薬が手に入ります。1〜2週間の服用で症状が消えれば、軽症のGERDだった可能性があります。
ただし、以下のいずれかに当てはまる方は、市販薬での自己治療は避け、医療機関を受診してください。
- 症状が2週間以上続いている
- 体重減少がある
- 嚥下時にしみる、つかえる
- 黒い便が出る、貧血がある
- 50歳以上で初発の症状
- 市販薬で改善しない、または再発を繰り返す
これらは食道がん・胃がん・食道狭窄など、見過ごせない病気のサインである可能性があります。
よくある質問(FAQ)

Q1. 逆流性食道炎は自然に治りますか?
軽症であれば自然軽快することはあります。一方、症状が週2回以上続く場合は、自然治癒は期待しにくく、治療を始めたほうが治りも早く、合併症の予防にもなります。
Q2. 治療期間はどれくらいかかりますか?
軽症の逆流性食道炎では、PPI/P-CABで4〜8週間内服すれば粘膜の炎症は治癒します。症状自体は数日〜2週間で軽くなる方が多いです。一方、重症例や再発を繰り返す場合は、維持療法として薬を長期継続することが推奨されます。
Q3. 薬は一生飲み続けないといけませんか?
必ずしもそうではありません。生活改善で再発しなくなれば中止できる方もいます。ただし、内服中止後の再発率は高く、症状が出たときだけ飲む「オンデマンド療法」もガイドライン2021で選択肢として認められています。自己判断で中止せず、主治医と相談してください。
Q4. PPIを長期服用しても大丈夫ですか?
ガイドライン2021では、PPIによる維持療法の安全性は高いとされる一方、長期投薬では骨粗鬆症の発症や肺炎・腸炎などの合併症の報告もあるため、注意深い観察が必要とされています。投与期間に明確な制限はありませんが、必要最小限の用量での使用が提案されています。
Q5. 食道がんになりますか?
逆流性食道炎が長期間続くと、食道粘膜が胃粘膜のような組織に置き換わる「バレット食道」が生じることがあり、ここから腺がんが発生するリスクがあります。ただし日本では食道がんは扁平上皮がんが主体であり、欧米と比べてバレット食道由来の腺がんは少ない状況です。重症例では定期的な内視鏡検査による経過観察が重要とされています。
Q6. ストレスは関係ありますか?
ガイドライン2021では、ストレスの増加や睡眠時間の短縮による中枢性の食道知覚過敏により、逆流症状が出やすくなることが示されています。特にNERDではストレス管理が重要です。
こんなときは消化器内科を受診してください

以下の場合は、できるだけ早く消化器内科を受診してください。
- 胸やけが2週間以上続いている
- 市販薬を飲んでも改善しない
- 食べ物が飲み込みにくい、つかえる
- 体重が減ってきた
- 黒い便、吐血、貧血
- 50歳以上で初めて胸やけが出た
- 過去に逆流性食道炎と診断され、症状が再燃している
胃カメラは「苦しい検査」というイメージが先行しがちですが、現在は経鼻内視鏡や鎮静剤を使った検査が普及しており、以前よりはるかに楽に受けられます。怖がらず、まずは相談から始めてみてください。
まとめ|逆流性食道炎は「正しく治療すれば怖くない」病気

- 逆流性食道炎は日本人の約10%にみられる身近な病気
- 中心となる治療は酸分泌抑制薬(PPI・P-CAB)
- 薬物療法と生活改善(減量・禁煙・遅い夕食の回避・就寝時頭位挙上)を組み合わせるのが治療の王道
- 「胸やけが2週間以上続く」「50歳以上で初発」「体重減少」は受診のサイン
- 一度は胃カメラで他の病気の除外を
20年の診療経験から申し上げると、逆流性食道炎は「正しく治療されれば、健康な人と同程度のQOLまで戻せる」病気です。我慢せず、適切な医療と生活改善で、つらい症状から解放されてください。
参考文献・出典
- 日本消化器病学会編. 胃食道逆流症(GERD)診療ガイドライン2021(改訂第3版). 南江堂, 2021.
- BQ1-1「日本人のGERDの有病率はどれくらいか?」(逆流性食道炎の有病率約10%、症状有訴者率約17.7%、NERDがGERDの半数以上)
- BQ1-2「逆流性食道炎では食道狭窄、出血を合併するか?」(出血9.0%、狭窄3.4%)
- BQ2-8「GERDの誘発因子は何か?」(高脂肪食、喫煙、薬剤、過食、肥満、ストレス等)
- BQ4-2「生活習慣の改善・変更はGERDの治療に有用か?」(減量、禁煙、遅い夕食の回避、就寝時頭位挙上)
- CQ4-1, CQ4-2, CQ4-5(PPI・P-CABの推奨)
- https://www.jsge.or.jp/committees/guideline/guideline/pdf/gerd2021r_.pdf
- 春田明子, 中島典子. 胃食道逆流症(GERD)診療ガイドライン2021の概説―Potassium-competitive acid blocker(P-CAB)の位置付けについて―. 日大医誌. 2022; 81(4): 179-185.
- 大島忠之, 三輪洋人. 非びらん性胃食道逆流症(NERD)の病態と治療. 日本消化器病学会雑誌. 2009; 106(3): 327-334.
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- (内部リンク:胃カメラを受ける前に知っておきたいこと等)
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の診断・治療に代わるものではありません。症状でお困りの方は、医療機関にご相談ください。

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