「胃もたれがずっと続く」「薬を飲んでも胃もたれが治らない」「内視鏡では異常なしと言われたのに症状が消えない」――。こうしたお悩みでお越しになる方は、外来でとても多いです。
このような状態を、医学的には「機能性ディスペプシア(Functional Dyspepsia:FD)」と呼びます。日本消化器病学会のガイドラインで明確に定義された、れっきとした疾患です。この記事では、消化器内科医として、日本消化器病学会『機能性消化管疾患診療ガイドライン2021』[1]に基づき、機能性ディスペプシアの症状・原因・治療薬、そして自分でできる対策まで丁寧に解説します。
結論:胃もたれが3か月以上続くなら「機能性ディスペプシア」かも

機能性ディスペプシア(以下FD)は、ガイドラインで以下のように定義されています。
「症状の原因となる器質的、全身性、代謝性疾患がないのにもかかわらず、慢性的に心窩部痛や胃もたれなどの心窩部を中心とする腹部症状を呈する疾患」
日本消化器病学会『機能性消化管疾患診療ガイドライン2021』BQ1-1[1]
つまり、内視鏡や血液検査で異常が見つからないのに、胃もたれや胃の痛みが続く状態のことです。
ガイドラインによれば、日本人のFDの有病率は健診受診者で11〜17%、上腹部症状で病院を受診した患者の45〜53%と報告されており[1]、決して珍しい病気ではありません。
機能性ディスペプシア(FD)とは?|2つのタイプに分かれる

FDの国際的な診断基準であるRome Ⅳ基準(2016年)では、以下の4つの症状のうち1つ以上を有するものをFDと定義しています[1]。
- 心窩部痛(みぞおちの痛み)
- 心窩部灼熱感(みぞおちの焼ける感じ)
- 食後膨満感(食後にお腹がパンパンに張る感じ)
- 早期満腹感(少し食べただけですぐに満腹になる)
さらにガイドラインでは、症状の出方によって以下の2つのタイプに分類されています[1]。
① 食後愁訴症候群(PDS:postprandial distress syndrome)
食後の膨満感・早期満腹感を主症状とするタイプ。「食事のあとに胃が重い」「少ししか食べていないのに満腹で食べられない」というケースです。週に3日以上の症状がある場合、症状のある週とされます[1]。
② 心窩部痛症候群(EPS:epigastric pain syndrome)
みぞおちの痛みや灼熱感を主症状とするタイプ。空腹時に痛みが出ることも、食後に出ることもあります。週に1日以上ある場合、症状のある週とされます[1]。
※ ガイドラインでは、Rome基準の「6か月以上前から症状があり、最近3か月続いている」という慢性の定義は日本人の診療には必ずしも適していないと考察されており、本邦のガイドラインでは「慢性的」の判断は患者を診察する医師に委ねるとされています[1]。
胃もたれが治らない原因|FDの病態を医師が解説
ガイドラインの第2章「病態・病因」では、FDが単一の原因ではなく多因子によって生じると整理されています[1]。主な要因として以下が挙げられています。
- 胃・十二指腸の運動異常(胃適応性弛緩障害、胃排出能障害など)
- 内臓知覚過敏
- 心理社会的因子(ストレス・不安・抑うつなど)
- 胃酸
- 感染性胃腸炎後の発症(感染後FD)
- ライフスタイル(運動・睡眠・食事内容・食習慣)
- 胃・十二指腸の微小炎症
つまり、「胃そのもの」だけが原因ではなく、胃の動き、感じ方、自律神経、ストレスなど多くの要因が絡み合って症状を生むというのが現代医学の理解です[1]。
なお、コーヒー摂取とFDの関連については、「関連する」とする報告と「関連しない」とする報告の双方があり、ガイドラインでは結論が出ていません[1]。一方で、コーヒーが胃酸分泌や腸の動きに影響する可能性については別記事で触れています。
💡 関連記事:コーヒーで下痢する原因と対処法|紅茶やカフェインレスは大丈夫?
ピロリ菌があるとFDではなく「H. pylori関連ディスペプシア」
意外と知られていませんが、ピロリ菌(Helicobacter pylori)に感染している方は、厳密には「FD」ではなく「H. pylori関連ディスペプシア(HpD)」と区別されます[1]。
「H. pylori感染を伴うディスペプシア患者は、FDではなくH. pylori関連ディスペプシア(Helicobacter pylori-associated dyspepsia:HpD)として取り扱う」
『機能性消化管疾患診療ガイドライン2021』BQ1-3[1]
これは、ピロリ菌の除菌後6か月以上経って症状が消失した場合は、原因がピロリ菌であったと考えるという整理に基づいています[1]。つまり、慢性的な胃もたれがある方は、まずピロリ菌感染の有無を確認することが診療の起点となります。
機能性ディスペプシアの治療薬|ガイドライン推奨の3本柱

ガイドラインのフローチャートでは、FDの治療は一次治療として①酸分泌抑制薬、②運動機能改善薬(アコチアミド)、③漢方薬(六君子湯)の3つが並列で位置づけられています[1]。それぞれを見ていきましょう。
① 酸分泌抑制薬(PPI・H2ブロッカー)
ガイドラインCQ4-2では、酸分泌抑制薬に関して以下が示されています[1]。
- プロトンポンプ阻害薬(PPI):強い推奨(合意率100%)、エビデンスレベルA
- ヒスタミンH2受容体拮抗薬(H2RA):強い推奨(合意率100%)、エビデンスレベルA
- カリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB):弱い推奨(合意率77%)、エビデンスレベルC
ただし、ガイドラインには「酸分泌抑制薬であるPPI、H2RA、P-CABはいずれもFDに対して保険適用はない」と明記されています[1]。診療の現場では、しばしば「逆流性食道炎」や「機能性ディスペプシア」のオーバーラップ症例に対して使用されます。
② 消化管運動機能改善薬(アコチアミド)
ガイドラインCQ4-3より[1]:
- アセチルコリンエステラーゼ阻害薬(アコチアミド):強い推奨(合意率100%)、エビデンスレベルA
- ドパミン受容体拮抗薬(メトクロプラミド、ドンペリドンなど):弱い推奨(合意率85%)、エビデンスレベルB
- セロトニン5-HT4受容体作動薬(モサプリドなど):弱い推奨(合意率85%)、エビデンスレベルB
アコチアミドは、日本人を対象にした臨床試験(n=1,156)で食後愁訴症候群(PDS)型FDに対して有意な効果が示されており、わが国で唯一FDに対する保険適用がある薬剤です[1]。商品名はアコファイド®(製造販売:ゼリア新薬工業株式会社/販売:アステラス製薬株式会社)。
③ 漢方薬(六君子湯)
ガイドラインCQ4-4より[1]:
- 六君子湯:強い推奨(合意率92%)、エビデンスレベルA
- 六君子湯以外の漢方薬:弱い推奨(合意率100%)、エビデンスレベルB
六君子湯は胃の運動機能を改善する作用が研究で報告されており、上腹部症状に対して広く使われている漢方です[1]。2018年のRCTでは、6君子湯7.5g/日の8週間内服でプラセボに対して有意な治療改善が確認されています[1]。
二次治療:抗うつ薬・心療内科的治療
一次治療で効果が不十分な場合は、ガイドラインのフローチャートに従い抗不安薬・抗うつ薬や心療内科的治療(認知行動療法、催眠療法、自律訓練法など)が検討されます[1]。
- 三環系抗うつ薬:弱い推奨(合意率92%)、エビデンスレベルA
- 抗不安薬(タンドスピロンなど一部のもの):弱い推奨、エビデンスレベルB
- 心療内科的治療:弱い推奨(合意率100%)、エビデンスレベルB
なお、ガイドラインでは「SSRIにはプラセボを有意に超える有効性は認められなかった」とも記載されています[1]。
自分でできる胃もたれの治し方|ガイドラインの生活習慣指導
ガイドラインCQ4-1では、生活習慣指導や食事療法は強い推奨(合意率100%)、エビデンスレベルBとされており、具体的な方法として以下が挙げられています[1]。
- 満腹まで食べず、少量ずつ複数回に分ける
- 高脂肪食を避ける
- 禁煙指導
- 飲酒・コーヒー摂取を避ける
ガイドラインでは「高カロリー脂肪食を避けることによって、FD症状の一部が軽減する可能性がある」と記載されており、脂質の摂りすぎが症状を悪化させることが示されています[1]。
また、喫煙とFDの関連性については、メタアナリシスにより喫煙者は喫煙未経験者と比してオッズ比1.50(95%CI 1.40〜1.60)と高いことが示されています[1]。
💡 食事面で気をつけたいことは、関連記事もご参考にどうぞ。
→ 下痢のとき食べてはいけない食品5選|消化器内科医が解説
FDで「胃に良い」食習慣の3原則

ガイドラインで明示された4項目を、より実践しやすい形に整理すると、次の3原則になります。
1. 「腹8分目で少量を複数回」のリズムを作る
満腹まで食べないこと、回数を分けて食べることはガイドラインで具体的に挙げられている方法です[1]。
2. 脂質を減らす(揚げ物・こってり系を控える)
「高カロリー脂肪食」を避けることがガイドラインで推奨されています[1]。
3. 喫煙・過度な飲酒・過度なコーヒーを控える
禁煙、そして飲酒・コーヒー摂取を避けることがガイドラインで挙げられています[1]。コーヒーや飲み物の影響については関連記事も参考になります。
→ コーヒーで下痢する原因と対処法|紅茶やカフェインレスは大丈夫?
よくある質問(機能性ディスペプシアのQ&A)
Q1. 機能性ディスペプシアは何科を受診すればいい?
A. ガイドラインのフローチャート上では、内視鏡検査でほかの器質的疾患を除外する流れがあるため、消化器内科や内科の受診が適切と考えられます[1]。胃の症状が長く続く方は、まずは消化器内科の受診をおすすめします。
Q2. 機能性ディスペプシアはプラセボでも症状が改善するというのは本当?
A. ガイドラインBQ4-2には「FDの治療においてプラセボ効果は大きい」と記載されています[1]。メタアナリシスではプラセボ効果の平均は56%と示されており、医師との関係性や説明・保証が症状改善に作用している可能性が論じられています[1]。これは「気のせい」という意味ではなく、脳腸相関が強く関与する疾患である表れです。
Q3. 漢方薬の六君子湯は本当に効くの?
A. ガイドラインで強い推奨(エビデンスレベルA)とされている薬剤です[1]。2018年のRCTでは、6君子湯7.5g/日を8週間内服した群は、プラセボに対して全般的治療改善効果で有意な差が示されています[1]。
Q4. 機能性ディスペプシアは治る?
A. ガイドラインの第5章「予後・合併症」では予後について議論されています(BQ5-1)[1]。ただし、本記事執筆時点でこの章の本文を確認できていないため、ここでは「治療継続で症状の改善が報告されている」とだけ記載し、断定的な表現は控えます。
Q5. 市販薬で対処できる?
A. 短期間の胃もたれであれば市販薬で改善する場合もありますが、症状が3か月以上続く、薬を飲んでも改善しないといった場合は機能性ディスペプシアの可能性があるため、自己判断せず受診を検討してください。アコチアミドのようにFDに対する保険適用のある薬は処方箋でしか入手できません[1]。
こんな胃もたれはすぐ受診を|消化器内科医からのサイン

機能性ディスペプシアは命に関わる病気ではありませんが、同じ「胃もたれ」でも、別の重大な病気が隠れていることがあります。日本消化器病学会のガイドラインでは、以下を「警告徴候(alarm signs)」として、器質的疾患(胃がん・潰瘍など)を除外するための内視鏡検査が必要な状態として整理しています[1]。
- 高齢で初めて胃もたれが出てきた(特に40歳以上で新規症状)
- 体重が短期間で減ってきている
- 繰り返す嘔吐がある
- 血便・吐血・タール便(黒い便)が出る
- 飲み込みづらさがある
- お腹にしこりを触れる
- 発熱を伴う
- 家族に食道がん・胃がんの方がいる
1つでも当てはまる方は、「ただの胃もたれ」と決めつけず、消化器内科や内科の受診をご検討ください。FDの治療を始める前に、こうした器質的疾患の除外がガイドラインで推奨されています[1]。
まとめ:胃もたれが続いたら「我慢」より「相談」を
機能性ディスペプシアについて、ガイドラインに基づき整理した内容をおさらいします。
- FDは「器質的異常がないのに胃もたれや心窩部痛が続く疾患」として、日本消化器病学会が明確に定義している病気
- 食後愁訴症候群(PDS)と心窩部痛症候群(EPS)に分類される
- 日本人の健診受診者の11〜17%、上腹部症状受診者の45〜53%と決して珍しくない
- 一次治療は酸分泌抑制薬・アコチアミド・六君子湯の3本柱(いずれも強い推奨/エビデンスレベルA)
- 生活習慣指導も強い推奨(エビデンスレベルB)。少量・複数回・低脂肪・禁煙・節酒/節コーヒーがポイント
- ピロリ菌があれば「H. pylori関連ディスペプシア」として別途扱う
- 警告徴候(体重減少・血便など)があれば早期受診を
「胃もたれが続く」「治らない」と感じている方は、決して気のせいでも、自分が我慢すべき問題でもありません。ガイドラインで治療法が確立された病気なので、ぜひ消化器内科でご相談ください。
関連記事もぜひご参考にどうぞ。
参考文献
日本消化器病学会(編).『機能性消化管疾患診療ガイドライン2021—機能性ディスペプシア(FD)改訂第2版』. 南江堂, 東京, 2021年4月.
本ガイドラインのクリニカルクエスチョン(CQ)・バックグラウンドクエスチョン(BQ)一覧は、日本消化器病学会の公式サイトで公開されています(https://www.jsge.or.jp/committees/guideline/guideline/fd.html)。本文の全文は書籍購入または日本消化器病学会の会員専用ページでの参照となります。

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