健診の結果が届いて、大腸がん検診の欄に「便潜血 陽性(要精密検査)」。
「でも、症状は何もないし……」
「大腸カメラって、下剤も大変そうだし怖い」
「仕事が落ち着いたら行こう」
そう思っているうちに、気づけば半年、1年。外来では「去年、陽性だったんですけど行けなくて」とお話しされる方に、本当によくお会いします。その気持ちは、とても自然なものです。
先に結論をお伝えします。
便潜血が陽性なのに精密検査を受けないままでいると、大腸がんで亡くなるリスクが約2倍になるという大規模な研究があります。
ただ、「陽性=がん」ではありません。陽性の方の多くは、がんではない結果で終わります。だからこそ、怖がりすぎずに、予約だけは入れてほしいのです。
この記事の結論(先に知りたい方へ)
- 陽性のまま大腸カメラを受けなかった人は、受けた人に比べて大腸がんで亡くなるリスクが約2倍(イタリア・約11万人の研究)
- 先延ばしにするほど、見つかったときにがんが進んでいる傾向がある(陽性から10か月をすぎるとリスク上昇)
- 便潜血をもう一度受けるのは、精密検査の代わりになりません。陽性のあとの「再検査」は大腸カメラです
- 「痛い・下剤がつらい・恥ずかしい・忙しい」には、それぞれ対処法があります
- 去年陽性で放置してしまった方も、今からでも遅くありません
「陽性だと、がんの確率はどれくらい?」が気になる方は、先にこちらをどうぞ。
→ 便潜血陽性で大腸がんの確率は?|消化器内科医が解説
便潜血陽性を放置するとどうなる?データで見るリスク
大腸カメラを受けなかった人は、大腸がんで亡くなるリスクが約2倍
イタリアのベネト州で、便潜血検査が陽性になった約11万人を10年間追いかけた研究があります(Zorzi ら、2022年)。
陽性のあとに大腸カメラを受けた人(約8万8千人)と、受けなかった人(約2万3千人)を比べると、10年間で大腸がんで亡くなった人は次のとおりでした。
| 大腸がんで亡くなった人(1,000人あたり) | |
|---|---|
| 大腸カメラを受けた人 | 6.8人 |
| 大腸カメラを受けなかった人 | 16.0人 |
年齢や性別などの影響をならしても、受けなかった人は、大腸がんで亡くなるリスクが約2倍(2.03倍)でした。
研究のタイトルそのものが「陽性のあとに大腸カメラを受けないと、大腸がんで亡くなるリスクが2倍になる」です。せっかく検診で見つけた「サイン」を、使わずに終わらせてしまうことの重さがわかります。
日本でも、厚生労働省は検診の質を測る目安として、陽性になった人のうち精密検査を受ける人の割合を「最低でも70%以上、目標は90%以上」と定めています。それだけ、陽性のあとの精密検査は、検診の中でも欠かせない部分なのです。
先延ばしにするほど、見つかったときにがんが進んでいる
「いつか受ければいいなら、急がなくても……」と思う方もいるかもしれません。
アメリカで、便潜血陽性のあとに大腸カメラを受けた約7万人を調べた研究があります(Corley ら、2017年)。陽性から大腸カメラまでの期間ごとに、がんの見つかり方を比べたものです。
| 陽性から大腸カメラまで | 大腸がんが見つかった人(1,000人あたり) | 進行がん(ステージⅢ・Ⅳ)だった人(1,000人あたり) |
|---|---|---|
| 8〜30日 | 30人 | 8人 |
| 2〜9か月 | 28〜43人(はっきりした差なし) | 7〜13人(はっきりした差なし) |
| 10〜12か月 | 49人 | 19人 |
| 12か月より後 | 76人 | 31人 |
陽性から9か月以内であれば、1か月以内に受けた人とはっきりした差はありませんでした。一方で、10か月をすぎると大腸がんが見つかる人が増え、1年をこえると、進行がんで見つかるリスクは約3倍(年齢などの影響をならした値)になっていました。
なお、これはアメリカの研究で、「待ったせいでがんが進んだ」と言い切れるものではありません。それでも、先延ばしにしてよいことはない、という目安にはなります。
つまり、「明日すぐに行かないと手遅れ」というわけではありません。でも、「来年の検診のときでいいか」と1年先送りにするのは危ないということです。
「症状がない」は、安心材料にならない
大腸がんの多くは、良性のポリープ(腺腫)が、何年もかけて少しずつがんに変わっていくと考えられています。
早い段階のがんやポリープには、ほとんど症状がありません。お腹が痛い、血便が出る、便が細くなる──といった症状が出るのは、ある程度進んでからのことが多いのです。
便潜血検査は、症状が出る前に「目に見えない出血」でサインを拾う検査です。症状がないから大丈夫、ではなく、症状がない今こそ、見つけるチャンスだと考えてください。
「もう一度便の検査(再検査)」ではダメな理由
陽性のあとの「再検査」は、便の検査ではなく大腸カメラ
健診の結果に「要精密検査」「要再検査」と書かれていて、「もう一度、便を取って出せばいいのかな?」と思った方もいるかもしれません。
ここは、とても大事なポイントです。
便潜血が陽性になったあとに必要な検査は、もう一度の便潜血検査ではなく、大腸カメラ(大腸内視鏡検査)です。
国立がん研究センターの「がん情報サービス」でも、はっきりとこう書かれています。
便潜血検査をもう一度受けることは精密検査の代わりになりません。
(国立がん研究センター がん情報サービス「大腸がん検診について」より)
2回目が陰性でも、安心できない
「念のため、もう一度便潜血を受けたら陰性だった。だから大丈夫」──これも、外来でよく聞くお話です。
でも、大腸のポリープやがんは、毎日出血しているわけではありません。出血している日もあれば、していない日もあります。たまたま出血していない日の便を取れば、がんがあっても陰性になることがあるのです。
ですから、一度でも陽性が出たら、そのあとの便潜血が陰性でも「なかったこと」にはなりません。陽性だったという事実のほうが大切です。
便潜血検査の精度や「見逃し」が起こるしくみは、こちらでくわしく解説しています。
→ 「便潜血検査は意味ない」は誤解|精度・限界・正しい活用法を消化器内科医が解説
健診で「要精密検査」「要再検査」と書かれていたら
会社や自治体の健診で、大腸がん検診の欄にこう書かれていたら、次の順番で動いてください。
- 大腸カメラ(大腸内視鏡検査)を行っている医療機関を探す(消化器内科・胃腸科・内視鏡内科など)
- 電話やWebで「健診の便潜血が陽性だったので、大腸カメラを受けたい」と伝えて予約する
- 受診するときは、健診の結果用紙を持っていく
多くの医療機関では、まず診察を受けて、そのあと大腸カメラの日を決める流れです。施設によっては、診察なしで検査の予約ができるところもあります。
便潜血陽性の精密検査では何をする?
基本は「大腸カメラ」
精密検査の基本は、大腸カメラ(全大腸内視鏡検査)です。
前日の食事に少し気をつけて、当日は下剤を飲んで大腸の中をきれいにします。そのうえで、肛門から細いカメラを入れて、直腸から盲腸まで大腸全体を観察します。
大腸カメラのよいところは、見るだけでなく、その場でポリープを取ったり、組織をとって調べたりできることです。小さなポリープなら、検査と同じ日に切除まで終わることも少なくありません。
当日の流れや所要時間は、こちらで時系列にまとめています。
→ 大腸カメラ当日の流れ|朝の飲み物・薬・服装・持ち物と所要時間を消化器内科医が時系列で解説
大腸カメラがどうしても難しい人の選択肢
体の状態などで、大腸カメラが難しい方もいます。その場合の主な選択肢は次のとおりです。
| 検査 | どんな検査? | 気をつけたいこと |
|---|---|---|
| 大腸CT検査 | 肛門から炭酸ガスを入れて大腸をふくらませ、CTで撮影する | 下剤での準備は必要。小さく平らな病変は見つけにくいことがある |
| 大腸のX線検査(注腸)+内視鏡 | 内視鏡が奥まで届かないときに、届かない部分をX線で調べる | 主に大腸カメラが奥まで届かないときに使われる |
| 大腸カプセル内視鏡 | カプセル型のカメラを飲み込んで、大腸を撮影する | 保険が使えるのは、大腸カメラが難しいと判断された場合などに限られる |
どの検査でも、ポリープや気になるところが見つかれば、結局は大腸カメラで取ったり調べたりする必要があります。また、どれも大腸をきれいにするための下剤は必要です。
ですから、「大腸カメラが怖いから別の検査で」と最初から決めてしまうより、まずは「大腸カメラを楽に受ける方法」を相談してみるのがおすすめです。
何科に行けばいい?
消化器内科が基本です。「胃腸科」「内視鏡内科」「肛門外科」などで大腸カメラを行っているクリニックもあります。予約のときに「大腸カメラができますか?」と確認すると確実です。
「受けたくない」理由別の対処法
大腸カメラを先延ばしにしてしまう理由は、人それぞれです。でも、多くの理由には、ちゃんと対処法があります。
「痛そう・怖い」→ 鎮静剤を使える施設を選ぶ
鎮静剤(ウトウトする薬)を使って、眠っているような状態で検査を受けられる施設も多くあります。「気づいたら終わっていた」とおっしゃる方も多いです。予約のときに「鎮静剤は使えますか?」と聞いてみてください。
→ 大腸カメラの痛くない受け方と下剤の選び方を消化器内科医が解説
「下剤がつらそう」→ 種類や飲み方の工夫がある
下剤には味や量の違う種類があり、施設によって選べることもあります。飲み方のコツを知るだけでも、ずいぶん楽になります。
→ 大腸カメラの下剤が飲めない・飲みきれない人へ|吐いたときの対処と飲むコツを消化器内科医が解説
「恥ずかしい」→ 検査用のパンツがあり、女性医師を選べる施設も
大腸カメラでは、お尻の部分にだけ穴のあいた検査用のパンツをはくのが一般的で、お尻が丸見えになるわけではありません。女性の方で気になる場合は、女性医師が担当する施設を探すのもひとつの方法です。
「忙しくて時間がない」→ 半日〜1日あれば受けられる
大腸カメラそのものは、通常20〜30分ほどです。下剤を飲む時間や、鎮静剤を使ったあとの休憩を含めても、多くは半日ほどで終わります。土曜日に検査をしている施設もあります。
ただし、鎮静剤を使った日は、車やバイク、自転車の運転はできません。行き帰りは電車やバス、家族の送り迎えなどを考えておきましょう。
→ 鎮静剤はいつ切れる?胃カメラ・大腸カメラ後の運転は何時間後から?一日中眠い・副作用を消化器内科医が解説
準備は、前日の食事に少し気をつける程度です。
→ 大腸カメラ前日の食事は何を食べていい?OK・NG食品と夕食は何時までを消化器内科医が解説
「痔のせいだと思う」→ 痔があっても大腸カメラは必要
痔があっても、出血の原因が痔なのか、大腸のポリープやがんなのかは、大腸カメラをしないとわかりません。
→ 便潜血陽性だけど痔がある…大腸カメラは必要?数値・切れ痔・毎年陽性の考え方を消化器内科医が解説
【医師の視点】「1年遅れて来ました」という方にお伝えしていること
外来では、「去年陽性だったんですけど、怖くて行けなくて……」と、少し申し訳なさそうに来られる方がいます。
私がまずお伝えするのは、「来てくださって、本当によかったです」ということです。
1年遅れたことを責めても、何もよいことはありません。大切なのは、今日、大腸の中を確認できることです。そして実際に大腸カメラをしてみると、「何もなかった」「小さなポリープを取って終わった」という方のほうが、ずっと多いのです。
「何もなかった」とわかれば、その安心は何年も続きます。もし何か見つかっても、早く見つかったぶん、それだけ治療の選択肢が広がります。
いつまでに受ければいい?
緊急度は、症状や背景によって変わります。目安は次のとおりです。
- 血便が続いている、便が細くなった、便秘と下痢をくり返す、体重が減ってきた、貧血を言われた → 便潜血の結果に関係なく、数日以内に消化器内科へ
- 過去にポリープを指摘された、家族に大腸がんの人がいるなど → 数週間以内に予約を
- 症状もリスクもとくにない → 1〜2か月以内に予約すれば十分です
先ほどの研究では、陽性から9か月以内なら、すぐに受けた人とはっきりした差はありませんでした。ただ、「半年後に予約しよう」と思っているうちに、さらに先延ばしになってしまう方が少なくありません。結果を見たその週のうちに、予約の電話だけでも入れておくのがおすすめです。
緊急度の考え方は、こちらの記事でもくわしく解説しています。
→ 便潜血陽性で大腸がんの確率は?|消化器内科医が解説
よくある質問(FAQ)
Q1. 去年(何年か前に)陽性だったのに、放置してしまいました。今からでも遅くないですか?
A. 遅くありません。今年の検診の結果を待たずに、大腸カメラを受けてください。そのときに「◯年前に陽性だった」と医師に伝えると、判断の参考になります。
Q2. もう一度便潜血検査を受けたら陰性でした。もう大丈夫ですか?
A. いいえ、それだけでは安心できません。大腸のポリープやがんは毎日出血するわけではないため、陰性になることがあります。一度陽性が出た場合は、大腸カメラで確認するのが基本です。
Q3. 再検査(大腸カメラ)の費用はどれくらいですか?
A. 健康保険が使え、3割負担の場合、観察だけなら5,000〜7,000円程度、組織の検査(生検)をすると8,000〜12,000円程度、ポリープを切除すると20,000〜30,000円程度が目安です。施設や地域、鎮静剤の有無などによって変わります。
Q4. 再検査はどこで受ければいいですか?健診を受けた施設でないとダメ?
A. 健診を受けた施設でなくてもかまいません。大腸カメラを行っている消化器内科などで受けられます。健診の結果用紙を持っていきましょう。
Q5. 2回とも陽性でした。1回だけ陽性の人より危ないですか?
A. 2日分のうち1回でも陽性なら、精密検査が必要なことに変わりはありません。2回とも陽性だった場合も、1回だけの場合も、大腸カメラを受けてください。
Q6. 大腸カメラの代わりに、CTやカプセルの検査を選べますか?
A. 大腸CT検査やカプセル内視鏡も精密検査の方法ですが、ポリープなどが見つかれば結局は大腸カメラが必要になります。また、カプセル内視鏡で保険が使えるのは、大腸カメラが難しい場合などに限られます。まずは担当の医師に相談してください。
まとめ
- 便潜血陽性のまま大腸カメラを受けないと、大腸がんで亡くなるリスクが約2倍になるという研究があります
- 先延ばしにするほど、がんが進んだ状態で見つかる傾向があります。とくに1年以上の先送りは避けましょう
- 便潜血をもう一度受けるのは、精密検査の代わりになりません。陽性のあとの「再検査」は大腸カメラです
- 「痛い・下剤がつらい・恥ずかしい・忙しい」には、鎮静剤や下剤の工夫など、それぞれ対処法があります
- 去年陽性で放置してしまった方も、今からでも遅くありません
便潜血が陽性になったのは、体が出してくれた「一度、大腸の中を見てね」というサインです。そのサインを受け取ったあなたが、次の一歩をふみ出せるよう、この記事が少しでも助けになればうれしいです。
参考文献・情報源
- 国立がん研究センター がん情報サービス「大腸がん検診について」 https://ganjoho.jp/public/pre_scr/screening/colon.html
- 厚生労働省 健康局がん・疾病対策課「がん検診の精度管理について」 https://www.mhlw.go.jp/content/10901000/000462462.pdf
- Zorzi M, et al. Non-compliance with colonoscopy after a positive faecal immunochemical test doubles the risk of dying from colorectal cancer. Gut. 2022;71(3):561-567. doi:10.1136/gutjnl-2020-322192
- Corley DA, et al. Association between time to colonoscopy after a positive fecal test result and risk of colorectal cancer and cancer stage at diagnosis. JAMA. 2017;317(16):1631-1641. doi:10.1001/jama.2017.3634
- コヴィディエンジャパン プレスリリース「大腸カプセル内視鏡の保険適用範囲拡大について」(2020年4月16日、令和2年3月5日保医発0305第1号に基づく) https://www.medtronic.com/jp-ja/about/news/pressrelease/2020-04-16.html

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